育児は母親がするもの、という考え方はもはや過去のものになりつつあります。多くの男性が育児に積極的に関わりたいと願っていますが、現実にはさまざまな壁にぶつかり、孤立感を深めてしまうケースも少なくありません。
今回は、パパ育コミュに参加されているパパさんの声を基に、男性が育児に「参加」するのではなく、当たり前の「日常」として関わっていくために、私たちが乗り越えなければならない社会的な壁について考えてみたいと思います。
1. 職場に残る「仕事第一」の風潮
育児に取り組む男性にとって、まず大きな壁となるのが職場です。育児休業(育休)の取得は増えているものの、その後のキャリアに不安を感じる声は少なくありません。
- キャリアへの懸念: 育休取得や時短勤務、急な早退が「キャリアの断絶」と見なされ、昇給や昇進に響くのではないかという懸念は根強く残っています。中には、育休明けに手当がなくなる部署に異動させられたり、人事評価が大幅に下がったりといった厳しい現実も存在します。

育児休業後は休業前の原職復帰が原則ですが、復帰後に営業職から内勤職に配転されて、手当がなくなりました。人事評価も大幅に下がり、昇給、賞与、出世にも影響がありました。
それで2年に渡り在職しながら、会社と裁判で争っています。弁護士に依頼せず、自分で書面作り、法廷に立ってます。
育児後にも壁が存在します。
- 無理解な職場文化: 男性が育休を取ることに対し「無責任だ」と非難する声や、年度の途中で育児休業を取ることが難しいといった暗黙の了解が存在する職場もあります。また、仕事の情報共有が夜の飲み会で行われるなど、育児中の人が参加しにくい慣習も、男性を疎外してしまう一因です。

定時退勤ってのがけっこう特殊だという仕事文化が日本社会に根強い。すなわち育児しにくい。男性も女性も。で、どっちかが定時退勤するってときに、女性がーっていう傾向がまだまだ強い。男性での定時退勤して家事育児のためーっていうのは奇異の目で見られる(奇異とまではいかなくても、変わった人だなーっていう)
2. 社会に根付く「母親主体」の慣習
社会全体に目を向けると、育児が母親中心に回っている現状に気づかされます。
- 「母親向け」のサービス・イベント: 児童館や子育て支援センター、育児アプリ、育児書など、育児に関するサービスの多くは「ママ向け」に作られています。支援センターで「今日はママは?」と尋ねられたり、離乳食教室への参加を断られたりするなど、男性は育児のコミュニティに踏み込みにくいと感じてしまうことがあります。

心情面でのざわつきについては私も覚えがあり、育児書やアプリに「この時期の赤ちゃんはママの抱っこが大好きです」といった表現が何気なく書かれていると、「パパの抱っこじゃダメなのかな」と、ほんの少し疎外感を覚えることがありました。
- 「偉いね」と特別視される育児: 男性が子育てを当たり前にこなしているにもかかわらず、「イクメンだね」「家族サービス、偉いね」と特別視されることに違和感を覚える男性は少なくありません。これは、育児が「女性がするもの」という前提があるため、男性の育児をまるで特別なことのように捉えてしまう社会の意識が表れています。
- 物理的な不便さ: 男性トイレにオムツ替えシートがない、授乳室のオムツ替えスペースが利用できないなど、設備的な問題も依然として存在します。

育児を理由に飲み会や会合を断るとひとまわり上のおじさん世代の方々からは「⚫⚫君はイクメンだね」「家族サービス、えらいね」といわれ、違和感を覚えたことがありました。日常生活の一部として取り組んでいる育児を、「背伸びして頑張ってる感」「サービス精神でやっていること」みたいに評されることを残念に思ったのかもしれません。
3. 家庭内でのすれ違い
社会の壁だけでなく、夫婦間にも課題は存在します。
- 無言のプレッシャー: 仕事中心の生活を送る男性は、育児や家事の負担を抱え込んだ母親が、体力や精神的な余裕のなさから不満を募らせていることに気づきにくいことがあります。母親は自分の苦しさを言葉にできず、父親側もその空気を感じ取りながらも、どう向き合っていいか分からずすれ違いが起きてしまいます。
- 夫婦間の育児経験値の差: 里帰り出産の場合、父親と母親の間に育児経験値の大きな差が生まれることがあります。この差を埋めるのに時間がかかり、父親が育児に自信を持てず、精神的に落ち込んでしまうこともあります。

エッセンシャルワーカーである妻の職場は、人手不足を理由に急な休みや業務調整がしづらいうえ、私の職場の融通が利きやすいこともあり、「旦那さんにやってもらえばいいのでは」などの選択肢があがりやすくなってしまい、子どもの急な発熱や保育園からの呼び出しに対応するのは基本私になってしまう場面が続いてしまいました(これは男女関係なく、職場の問題かもしれませんが)。妻は時短勤務にしていたものの業務と責任が大きかったこともあって、最終的に職場を変えて今に至ります。
全体的に、我が家の場合は育児サポートをする人事制度的なリソースが、私の職場に寄ってしまっているのを感じました。
育児を「日常」にするために
男性が育児を「手伝う」のではなく、「日常」として主体的に担うためには、社会全体の意識改革が必要です。職場では、育児休業を取得しやすく、育児との両立を評価する文化を醸成すること。育児休業を取得することが、「好事例」として効率化の話ばかりされるのではなく、当たり前のこととして捉えられる社会になるべきです。また、社会全体では、「母親向け」「父親向け」といった性別での区別をやめ、すべての子育て当事者が利用できるサービスや情報を提供していくことが求められます。
男性が育児の壁を乗り越え、子育ての喜びを分かち合える社会になることを願っています。

全体的に、子育てがすでに「日常」になっている父親に対する支援が少ないです。子育てに「参加」しましょうと言われることがあります。それはそれで分かるのですが、もう父親の子育て支援はそのフェーズではなく、「日常」として子育てをしている父親への支援が必要だと考えています。