「人生の大きな石」を最初に入れる。1年間の育休を経て、団体職員として働くしんしんさんの幸福論

足利市出身、分子生物学の修士課程修了。異色のバックグラウンドを持つしんしんさんは、現在、団体職員として地域に食料や雑貨を届ける配送の仕事に就いています。

かつては群馬県沼田市の産直団体で、朝から夜まで生産者の野菜の流通の仕事に勤しみ、農業で独立を目指して地元に戻り生産者になることを志した時期もありました。その後、現在の仕事に出会いました。「人と直接会い、話すことが好き」という彼にとって、玄関先でかわす日常の会話は、何よりのやりがいとなっています。

第一子の後悔と、スマホに残らなかった3ヶ月

そんなしんしんさんの転機は、2020年の第一子誕生でした。6年にわたる不妊治療の末、ようやく授かった待望の命。しかし、世の中はコロナ禍の緊急事態宣言下。さらに出産からわずか2週間後、追い打ちをかけるように異動が命じられました。

「通勤時間が10分から1時間に増え、初めての子育てで何をしていいかも分からない。当時は『育休』という選択肢すら頭にありませんでした」

余裕を失った家庭内では、いわゆる「産後クライシス」が起きていました。 「当時の自分のスマホを振り返っても、生後3ヶ月までの子供の写真が1枚も残っていないんです。それくらい、心に余裕がなかった」

第二子でのリベンジ。1年間の育休で「フルコミット」する

「次は、絶対に後悔したくない」

2024年3月、第二子の誕生に合わせて、しんしんさんは1年間の育休を取得しました。「仕事と家庭、どちらが大事か。どう考えても家庭が大事だ」という強い信念、そして「後に続く後輩たちが取得しやすい環境を作りたい」という思いがありました。

最初の2ヶ月は育児にフルコミット。夜間授乳も一手に引き受け、妻を休ませるために寝室も分けました。3時間おきに起きる過酷な日々でしたが、第一子の時に向き合えなかった「育児の時間」を取り戻すかのような、濃密な時間でした。

育児が落ち着いてからは、趣味のボウリングで息抜きもしました。夜の大会は家族のために我慢し、昼間にご年配の方々と「健康ボウリング」を楽しむ。そんな自分なりの「抜く」時間も、両立には不可欠でした。

育休の経験が、今の仕事の「強み」になる

1年間の育休を経て復職した今、しんしんさんは以前にも増してバリバリと働いています。 「育休をとっても、これだけ成果を出せるんだ」と背中で示したい。そんな思いから、営業成績も計画的にクリアしています。

「玄関先でママさんと話す時、『育児って本当に大変ですよね。僕も1年育休を取得して育児に励み実感しました』と伝えると、心の距離がぐっと縮まるんです。実体験に基づいた言葉は、相手への共感に繋がっています」

しんしんさんの仕事術は、「今日一日のタスクを具体的に潰すこと」。大きな目標に惑わされるのではなく、目の前の相手と雑談し、相手の不安に寄り添う。自分が「微妙」だと思うものは正直に伝え、納得できる提案だけをする。その誠実さが、高い成果に結びついています。

人生の壺に、何を最初に入れるか

しんしんさんが大切にしている考え方があります。 「人生という壺には、まず『大きな石(一番大切なもの)』を入れなければならない。砂や水を先に入れたら、大きな石はもう入らないから」

「僕にとっての大きな石は、結婚することと子供を持つことでした。それはもう叶えることができた。だから、残りの人生はボーナスゲームのようなものです。どんなに仕事が忙しくても、子供が駆け寄ってきて笑ってくれる瞬間があれば、それだけで幸せだと思えます」

毎晩、Audibleで好きな小説を聴きながら夕飯を作り、ワインを片手に楽しむ。そんなささやかな時間が、今の彼を支えています。

仕事と家庭。どちらも完璧を目指すのは難しいけれど、今ある環境の中でどう幸せを見つけるか。1年間の育休という大きな決断を経て、しんしんさんの人生の壺には、今、揺るぎない「大きな石」がどっしりと鎮座しています。

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